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「相続」に関する成功と失敗事例
  • 「相続」に関する成功と失敗の事例を紹介します。
    事例1 相続時精算課税制度で生前に贈与する!
    相続時精算課税制度と生前の遺留分放棄と遺言書で「完壁」な相続対策をする方法について解説します。
    事例2 税務調査で発覚した家族名義の預貯金!
    贈与の記録を残さなかったばかりに、相続がうまくいかなかった細川家(仮名)の事例をご紹介します。
    教訓:贈与するのなら、きちんと申告して記録を残しましょう。
◆失敗の事例(Hさんの場合)
  • ◆背景

     預貯金の口座名義人と生前贈与については、よく調査で問題にあがるところです。
    被相続人:細川忠さん(仮名)は80歳半で亡くなり、残された遺族はお子さんが3人。奥様はすでに他界。お子さんにはそれぞれお孫さんが2人ずついらっしゃいます。(下記相続人関係略図を参照)
    相続人関係略図
     細川忠さんは生前に事業を営んでおり、不動産の他にもかなりの財産を残しました。そこで、お子さんとそのお孫さん、合わせて9人全員に、毎年少しずつ贈与をしようと思いました。細川さんはお孫さんが生まれたころから、ご自分が亡くなる5,6年前までの間、お子さんとそのお孫さんの名義の口座に毎年のように60万円づつ無税で贈与をしたのです。そのほとんどは自宅の近所の郵便局とS銀行の口座でした。

    (※注: 最近の税制改正で1年間に110万円までの贈与でしたら無税で行えるようになりましたが、それ以前は60万円でした。)

     これで細川忠さんは、相続対策は万全だと考え、ご家族にも、「相続は何も心配ないから大丈夫だ。」と言い続けて亡くなられたのです。この時には、お子さんとお孫さん達の口座には、合わせて9千万円近くのお金が積みあがっていました。
    ところが、申告してから1年後、つまり被相続人が亡くなられてから、約1年10ヶ月後に税務調査が入りました。

     税務署によれば「この家族名義の郵便貯金は、名義人は家族ではあるが、実質、被相続人の所有のものではないのか?であれば相続税の対象である。」ということなのです。
    実は、長女が、細川忠さんが亡くなられる直前に、ご本人の名義の口座の他、家族全員の口座もすべて同日に解約していました。

     さて、家族名義の口座には、過去、毎年のように60万円以内の金額が入金されています。金額は生前贈与の無税の枠内です。ですから贈与の申告は1度もしていませんでした。
    これは、相続財産になるでしょうか?

     「名義借り口座は、相続税の対象」

     家族名義の口座であっても、その通帳と印鑑の管理者(実質所有者)が被相続人で、家族が自分名義のその預貯金を自由に出し入れできていないとすれば、それは単に「名義借り」ということになります。つまり、預貯金は被相続人の所有であり、相続税の対象となります。
    さらに税務調査で発覚したような場合は、修正申告までの延滞税(14.6%)に加え、過小申告加算税(10%)や重加算税(35%)等というプラスαでの税金負担が重なることがあります。
    財産隠しの行為が明らかであり、悪質であり、巨額であるような場合は、脱税行為で告発されることもありますし、さらに罰金もかかります。
    こうなると、初めから素直に申告していたほうがずっと良かった、と悔やまれることでしょう。
(1) 印鑑、通帳の重要性
  • ◆印鑑・通帳の所在場所・出し入れの記録・解約日などが重要

     本件の場合、家族名義の口座の印鑑がすべて同一の印鑑でした。通帳と印鑑は実際に被相続人が亡くなるまで、タンスの中に所持していました。被相続人と同居している長男とその孫以外は、別に住居を持っていますので、同居していない子や孫の分まで、印鑑が一緒であることは不自然です。

    このように、
    ・印鑑がすべて同一である
    ・通帳から引き出した事実が一度もない
    ・被相続人の亡くなる直前に、被相続人の口座と共に家族名義の口座もすべて解約しているという事実
    ・相続人は解約後、直ちに通帳と印鑑を破棄していたこと
    などから、これは被相続人の財産であると税務署に主張されても、そうでないという反論が難しくなってきます。
(2) 贈与記録の重要性
  • ◆贈与時に申告をして、贈与の事実を記録に残すことは重要

     さらに、被相続人の細川忠さんは過去の贈与時に申告をしていませんでした。60万円では無税の範囲ですから、贈与の申告は不要です。
    しかしそのために、疑惑を持たれることになりました。税務署側の主張を見てみましょう。

     例えば、生前の被相続人:細川忠さんが、300万円を家族名義の口座に預貯金しておいて、贈与の申告をしないでおいたとしましょう。

    1)細川忠さんが生きている間に贈与税の税務調査があり、細川忠さん本人が次のような主張をしました。
     「この300万円は、単に家族の名義借りであって、実質所有者は細川忠であるから贈与に該当せず、贈与税はかからない。」

    2)細川忠さんの死後に税務調査があり、相続人が次のように主張しました。
     「この300万円は、細川忠が過去に家族に生前贈与したものであって、すでに家族の所有のものであるから相続財産ではなく、相続税はかからない。また、昔の贈与については、すでに時効であるので、贈与税もかからない。」

     上記の場合は、細川忠さんの生前においても死後においても、細川忠さんの財産が家族に移転する事実から税金がとれないことになります。このように、その場しのぎで、言い逃れるような行為を国は許さないでしょう。したがって、相続の税務調査でグレーゾーンを作らないように、過去に贈与があったのであれば、その事実をはっきりとした(申告書を提出する)形で、残すほうがいいのです。

     「贈与記録の残し方」
     よく言われるように、61万円(現在では111万円)と控除額よりわざと1万円多く贈与して、税金を千円納めていれば、その事実が記録に残りますから、贈与が過去にあったか、それともなかったかの疑惑が払拭されることになるのです。

     「銀行等の調査」
     税務署は、申告書に記載されている銀行等以外の、被相続人の自宅周辺や、職場周辺の銀行等を調査する場合があります。調査方法は、直接出向く場合、書面による場合があります。
    また、調査はその被相続人名義の預金等だけでなく、同居親族や相続人名義のものも調査します。昔は仮名で口座が作れた時代もありましたので、仮名口座も調査します。郵便局も調査可能です。
(3) 裁判例及び結論
  • ◆預貯金の帰属について、裁判例

     最後に、過去の裁判例を見てみましょう。

     「被相続人の銀行預金は、印鑑の使用状況、解約、設定、振替の動き、受取利息の預入先等の状況、および相続人が経済の実権を有していた事実などから、当該銀行預金は名義のいかんを問わず、被相続人が管理・運用・支配していたものと認められる。(東京地判1979年7月30日)

    預貯金が誰に帰属するかは、
    ・預金預入の経過
    ・銀行側の取扱い
    ・印鑑の使用状況
    ・解約、入金や払い戻しの状況
    ・管理・運用・支配などの事実関係
    から総合的に判断され、実質課税の原則が適用されることになります。

    ◆結論

     「疑わしきは罰せず。」という理論は税務署にはなかなか通用しません。
    疑いをもたれない行為を、常日頃、心がけないとならないでしょう。
    今回は、被相続人は、良かれと思ってしたことですが、本人の意思に反して、相続は思い通りにうまくはいかなかったのです。

    贈与するのなら、きちんと申告して記録を残しましょう。
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