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「相続」に関する成功と失敗事例
  • 「相続」に関する成功と失敗の事例を紹介します。
    事例1 相続時精算課税制度で生前に贈与する!
    相続時精算課税制度と生前の遺留分放棄と遺言書で「完壁」な相続対策をする方法について解説します。
    事例2 税務調査で発覚した家族名義の預貯金!
    贈与の記録を残さなかったばかりに、相続がうまくいかなかった細川家(仮名)の事例をご紹介します。
    教訓:贈与するのなら、きちんと申告して記録を残しましょう。
◆成功の事例(Yさんの場合)
  • ◆背景

     長女は3年ほど前から、実母のヨシさん(80歳超)を引き取って、現在、埼玉で生活しています。ヨシさんは最近物忘れがひどくなり、体調も良くないのですが、判断能力に問題はなく、また、寝たきりになってはいません。
     3年より以前は、長男夫婦が北海道で共に生活して面倒を見ていました。しかしヨシさんが、段々気難しくなり、長男の嫁とうまくいかない点と、寒さが厳しい北海道より雪のない埼玉での生活という点から、長女と同居することになったのです。

     ヨシさんは北海道に、A,B,Cの3箇所の土地とアパートを1棟、所有しています。これらは、いずれもヨシさんの夫の相続で取得したものです。
     A土地の上には、長男名義で8年前に建て替えた家があり、ここに長男夫婦が居住しています。3年より以前は、ヨシさんも同居していました。
     B土地の上には、長男が経営する会社のビル(長男名義)があります。長男の会社は、二年前に取引先が倒産してから経営が急速に悪化し、この土地・建物ともに長男の会社の借入の担保に入っていますが、債務超過状態で、経営は非常に厳しいようです。
     C土地の上には、ヨシさん所有の古いアパートがあり、満室でアパートの管理状態は良好、不動産収入が年に400万円ほどあります。
    長女は、結婚してからずっと埼玉で夫婦共稼ぎをして生活しており、過去に父母から土地や家を買ってもらったことなどはありません。

    最近、ヨシさんは心身がかなり弱ってきており、以前に長男夫婦との生活がうまくいかなかったことも忘れ、再び、生まれ育った北海道に帰りたいと言いはじめました。長男も、それを歓迎するので早く帰ってこいと返事をしています。

     ところが長女は、ヨシさんが北海道の長男夫婦の家に戻ったら、ヨシさん名義のアパートやその敷地など、担保に入ってない土地が、長男の事業のための借入に新しく担保提供されてしまうか、もしかしたら売却されてしまうかもしれないと思いました。
     つまり、長男夫婦が母を引き取りたいと言うのは、善意ではなくて、母の財産が目当てではないかと、長女は案じているのです。ヨシさんは、最近、記憶力が非常に弱くなり、不動産や現金等の管理は自分では到底できないと思われます。C土地のアパートは、地元の不動産会社に以前から管理を任せていますが、その書類や収入管理は現在は長女が把握しており、家賃収入はすべてヨシさんの生活費や医療費や介護費用に当てています。
(1) 遺言書を書く方法
  • ◆遺言書をかいてもらう方法では駄目

     ヨシさんが、どうしても生まれ故郷の北海道に帰りたいのなら、その望みをかなえてさしあげる事が本人のためにも良いと思います。しかし、ヨシさんは高齢で体も弱っていますし、寒冷地の北海道で、しかも不景気の長男の家に引き取られたら、かえって寿命が短くなるかもしれません。
     長女が心配するのは、ヨシさんの北海道での生活の点と、400万円のアパートの家賃収入が、負債で苦しむ長男の事業に充てられ、さらに、ヨシさんの所有する不動産の何もかもが、長男の負債の返済や事業資金に使われて無くなってしまうかもしれないという点です。

      長女は、ヨシさんに公正証書遺言を書いてもらい、ヨシさんの所有のA、B、Cの土地のうち、たとえば、C土地とその上にあるアパートを長女に相続させる、などという遺言書を作成する方法も考えました。
    しかし、遺言書は、常に新しい日付けが優先されます。
    もし、北海道に帰ったときに長男に、全ての財産を相続させるという遺言書が新たに作成されてしまったら、それより古い日付の長女への遺言書は、いくら正式なものでも意味がなくなります。
      ヨシさんは軽度の痴呆状態がはじまり、日々進行しつつあるので、北海道に帰れば、長男夫婦の言うままに、いくらでも新しい遺言書ができそうだと長女は恐れました。
    また、ヨシさんは、重要な書類に印を押してしまうかもしれませんから、ヨシさんの相続が発生する前に、その財産を長男の事業保障として担保に入れられてしまうことが考えられます。

     いずれにしろ、母が長男の元に帰り、かつ、長男が破産したら、もう一人の相続人である長女の手には財産は何ひとつ残らない可能性が高いのです。
(2) 無税で生前贈与
  • ◆相続時精算課税制度でアパートとその敷地を無税で生前贈与してもらう

     そこで、昨年の税制改正で新しく創設された相続時精算課税制度を使い、ヨシさんの持つ財産のうち、アパート部分だけでも、長女の名義に移すことにしました。生前贈与です。

     「相続時精算課税制度による贈与」

    今回の「相続時精算課税制度による贈与」であれば、2500万円までは、贈与年において無税で贈与できます。ただし、相続発生時にすべて持ち戻し計算されますので、ヨシさんの相続税を予め試算してから、損得を見極めた上で贈与を実行しなければなりません。

     ヨシさんの財産は、現金や預貯金などはほとんどなく、不動産だけですが、北海道という地域性もあって、土地の評価額は高くありません。また小規模宅地等の評価減を活用することにより、基礎控除7000万円を差し引けば、相続税は、ほとんど無いものと推計できました。
      一方、ヨシさんの財産のうち、アパートとその敷地は、現在担保に供されてもいないし、今後の不動産所得も見込める収益性のある土地で、かつ、アパートは築年数が古く、相続税法上の評価が低いことが分りました。
     長女は、贈与税の負担などの出費は極力少なくしたいということでしたので、
    無税で済む2500万円の範囲内で、このアパートとその敷地を長女に生前贈与してもらうことにしたのです。
      公正証書で贈与契約書を作成し、登記し、贈与税の確定申告書を提出します。贈与税は0円です。不動産登記の諸費用や、申告書作成手数料などがかかるかもしれませんが、これからは毎年、不動産収入が400万円前後入ります。古いアパートですが、まだ十分、家賃収入は期待できそうです。
     ヨシさんには、この他にA土地、B土地もありますので、長男の遺留分は侵害していません。生前贈与してしまえば、このC土地とアパートは、長女の所有になり、ヨシさんが長男夫婦の元に帰っても安心です。
    もしヨシさんが、再び長女と同居したいと言ったら、長女は喜んで引き取ると言っています。
(3) 相続時精算課税制度
  • ◆先に財産を生前贈与してもらった方が得か?!

     この「相続時精算課税制度」による生前贈与は、今回の例のような場合は最も効果的です。もし長女が何もせずに、ヨシさんを北海道の長男夫婦の元に帰した場合、長男が先にこの「相続時精算課税制度」による生前贈与で、ヨシさんの財産をすべて贈与してもらう可能性があります。
     アパートと、その敷地であるC土地やA土地を長男がもらってしまえばどうなるでしょうか?
     長男はそれらの不動産を売却し、借入の返済に充てるでしょう。それでもまだ借入が残り、その後に破産した場合の最悪のシナリオでは、長男の財産はすべて無くなります。
     もし、すべての財産を長男が生前贈与してもらい、その財産を長男が失えば、後で、長女が遺留分減殺請求をしても意味のないことになります。相続財産が無くなってしまえば、いくら裁判をしようが何をしようが無いものは無いのです。長女の取り分は0です。

     「どちらが先に「相続時精算課税制度」を使い、財産を贈与してもらうか」運命の分かれ道がここにあるのです。
(4) 相続は生前から?!
  • ◆相続は生前から始まった!

     このような生前贈与の道が開かれたことで、相続が実は生前から始まったということにお気づきでしょうか?
     2500万円までなら、とりあえず無税です。2500万円を超える生前贈与をした場合でも、20%の贈与税で贈与可能となりました。相続時に持ち戻し計算がありますので、この点を十分注意しながらでも検討する価値はありそうです。 
     今回の例では、生前から、親の財産の‘分捕り合戦’が起きているといっても過言ではありません。
     このように兄弟姉妹の一人が債務に苦しんでいるような状況は要注意です。
    しかし、そういう状況ではなくても、先に遺留分の侵害をしない程度に生前贈与をしてもらった子が、財産を多くもらうことが十分可能になりました。

     ただし、ヨシさんが現時点で、贈与の意味さえも理解できないほど判断能力が低下していたら、贈与契約はできません。このような場合は、成年後見制度を検討しなければならないでしょう
(5) 相続対策
  • 相続時精算課税制度と生前の遺留分放棄と遺言書で完ぺきな相続対策
    1.相続時精算課税制度とは

     平成15年度税制改正により、65歳以上の親から20歳以上の子に2500万円までは無税(住宅取得資金の贈与は親の年齢制限無し、子は20歳以上で3500万まで無税)、それを越える部分は20%の贈与税を支払えば贈与可能となりました。これにより、賃家等の収益物件や自社株等を子に生前に贈与することで、効果的な節税対策が可能となるとともに、遺言書と遺留分の生前放棄を組合せですることで、完璧な事業承継プランができます。
    ‘争族’が想定されるような場合、ライバルである他の相続人に、先にこの新しい生前贈与制度で財産を全て贈与されてしまえば、貴方の取り分は失われます。遺留分侵害があった場合のみ、減殺請求ができるだけです。それも、相続までの時間が長いとあてにはなりません。

    2.相続時精算課税制度のメリット・デメリット

    メリット デメリット
    • 資産価値が将来上がる財産の贈与(オーナーの自社株等の子への贈与)は節税効果あり。
    • 子の借入金の繰上げ返済する資金
    • 事業用資産を購入し贈与
    • 資産価値が将来下がるか、もしくは不明の財産の贈与
    • 贈与時の時価で持ち戻される。現金はその額で(インフレ・デフレ率、利息等は考慮なし。)持ち戻される。
    • 収益が多く生まれる財産の贈与(事業用物件等)は節税効果あり。
    • 収益が上がらない財産の贈与(自己の居住用家屋・敷地等)
    • (所得の分散効果)贈与者の所得税率が高く受贈者の所得税率が低い人は節税効果あり。
    • 贈与者の所得税率が低く受贈者の所得税率の高い人は逆。
    • 受贈者がその贈与資産を適切に運用することができる場合。
    • 受贈者が贈与財産を食いつぶす恐れのある場合
    • 子の配偶者(長男の嫁等)を養子にしてから贈与可能。
    • 子が死亡していない場合の孫への一回飛ばしの贈与は不可
    • 任意のタイミングで贈与できる。(時価の安い時に贈与可能)
    • 贈与者が死亡するまで管理が長期
    • 納税者総背番号制が実施される?
    • 親からの遺言の生前実行で相続争いの防止。
    • 障害者等の弱者が相続人にある場合の親としての生前にできる手段。(信託等の利用)
    • 生前に親の財産の分捕り合戦が起きる可能性あり。
    • (納税資金の前払い)相続時に全額納付するより、分割で前払いで納付できる。
    • 相続時に、生前贈与財産の価値が0円になっていても、生前贈与部分に対しての税金がかかる可能性あり。
    • 贈与に物納は認められない。
    • 子ごとに親ごとに選択できる。住宅取得資金の贈与で子は父母から合計7000万円無税で贈与可能、さらに祖父母から550万円の旧来の贈与を無税で受けることも可能。
    • いったん相続時精算課税制度を選択すると撤回不可能。以後の同じ贈与者からの贈与は、たとえ少額でも全てこの制度が適用される。
    • 多額の贈与でも(2500万円控除後)一律20%の税額ですむ。(旧制度の贈与は最高50%の税率)
    • 小規模宅地の評価減は適用ない。
    • 相続時精算課税制度に贈与の時効はない。

    注意事項
    (1) 2500万円は非課税ではありません。課税の繰延です。とりあえず贈与時には、無税あるいは2500万円超過部分は20%の税金で済みますが、相続時に、この贈与財産も贈与時の時価で持ち戻しされ、被相続人から受け取った全ての財産を課税対象として、相続税が計算されます。その際、既に支払った贈与税額が有れば控除されますが、相続税がかかることには変わりありません。

    (2) 一度、相続時精算課税制度を適用した後は、従来からの暦年贈与に切り換えはできません。その贈与者からの贈与はたとえ少額な金額でもすべて相続時に持ち戻し加算される対象となります。

    (3) この制度を適用すると節税になるか否かは、人によりケースバイケースです。相続時精算課税制度の生前贈与を選択する方が有利か、従来からの暦年贈与(110万円まで無税の贈与)の制度が有利かは、相続に詳しい税理士に相談してください。

    (4)他の共同相続人の生前贈与の内容について、必要な情報を税務署長が開示する制度ができました。これは、他の兄弟姉妹に生前贈与がどれほどあったかが判明しないと、相続税の計算ができなくなるからです。

    (5) 孫養子にすると相続税額が2割加算となりましたので、代襲相続人でない孫の相続は複雑になりました。
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