預貯金の口座名義人と生前贈与については、よく調査で問題にあがるところです。
被相続人:細川忠さん(仮名)は80歳半で亡くなり、残された遺族はお子さんが3人。奥様はすでに他界。お子さんにはそれぞれお孫さんが2人ずついらっしゃいます。(下記相続人関係略図を参照)
細川忠さんは生前に事業を営んでおり、不動産の他にもかなりの財産を残しました。そこで、お子さんとそのお孫さん、合わせて9人全員に、毎年少しずつ贈与をしようと思いました。細川さんはお孫さんが生まれたころから、ご自分が亡くなる5,6年前までの間、お子さんとそのお孫さんの名義の口座に毎年のように60万円づつ無税で贈与をしたのです。そのほとんどは自宅の近所の郵便局とS銀行の口座でした。
(※注: 最近の税制改正で1年間に110万円までの贈与でしたら無税で行えるようになりましたが、それ以前は60万円でした。)
これで細川忠さんは、相続対策は万全だと考え、ご家族にも、「相続は何も心配ないから大丈夫だ。」と言い続けて亡くなられたのです。この時には、お子さんとお孫さん達の口座には、合わせて9千万円近くのお金が積みあがっていました。
ところが、申告してから1年後、つまり被相続人が亡くなられてから、約1年10ヶ月後に税務調査が入りました。
税務署によれば「この家族名義の郵便貯金は、名義人は家族ではあるが、実質、被相続人の所有のものではないのか?であれば相続税の対象である。」ということなのです。
実は、長女が、細川忠さんが亡くなられる直前に、ご本人の名義の口座の他、家族全員の口座もすべて同日に解約していました。
さて、家族名義の口座には、過去、毎年のように60万円以内の金額が入金されています。金額は生前贈与の無税の枠内です。ですから贈与の申告は1度もしていませんでした。
これは、相続財産になるでしょうか?
「名義借り口座は、相続税の対象」
家族名義の口座であっても、その通帳と印鑑の管理者(実質所有者)が被相続人で、家族が自分名義のその預貯金を自由に出し入れできていないとすれば、それは単に「名義借り」ということになります。つまり、預貯金は被相続人の所有であり、相続税の対象となります。
さらに税務調査で発覚したような場合は、修正申告までの延滞税(14.6%)に加え、過小申告加算税(10%)や重加算税(35%)等というプラスαでの税金負担が重なることがあります。
財産隠しの行為が明らかであり、悪質であり、巨額であるような場合は、脱税行為で告発されることもありますし、さらに罰金もかかります。
こうなると、初めから素直に申告していたほうがずっと良かった、と悔やまれることでしょう。